2008/05/31

指輪

出張の帰りに鹿児島によった。空いた時間に母とランチをした。
低い雲が雨の季節の始まりを教えた。
ぱらぱらと雨が降り出し、アーケードまで早足で歩いた。
鹿児島の老舗百貨店の近くにあった小さな喫茶店でランチをした。
母は以前弟とこの店に来たそうだ。
小さな小さな喫茶店。入り口がカランカランと鳴り、コーヒー豆の挽きたての香りがリラックスさせる。

「こないだの母の日何かもらった?」
「花をもらったわよ。」

「誕生日でしょ来月。もういくつだっけ?」
「54よ。」

「何か欲しい?」
「何か買ってくれるのね?」

「母の日と、誕生日の何か買おうか?」
「ホントね?」

小さな喫茶店で少し小さく見えた母が笑った。

近くの店で、指輪をみた。

「おねぇちゃんの結婚式につけたいって思うんだけど。」
「時計がいいかしら?指輪がいいかしら?」

「どっちでもいいよ。」

そういったアクセサリーを身に着けることがなかった母。
身に着けていたかも思い出せない。

店員さんにいろいろ見せてもらい、母はこっちもいい、あっちもいいと目を輝かせていた。

そしてひとつ母が選んだ。
「これでいい?」

「あぁ、いいよ。これお願いします。」

母はその場で指輪を付けて帰るといった。

「気に入ったの?」
「うん、これ、お父さんが買ってくれた指輪と同じ石なのよ。」

そういって母は何度も指輪を見ながら歩いた。

「じゃあ、またね。姉ちゃんの結婚式で。」
「頑張って。ありがとうね指輪。」

空港行きのバス停は人が少なかった。空はまだどんより低く、天文館の賑わいも平日の雰囲気だ。
素敵なおばあちゃんとおじいちゃんが優しい笑顔で目の前を通り過ぎる。

ふと、おばあちゃんの指をみる。

素敵な笑顔をしたおばあちゃんはやっぱり綺麗に輝く石をつけた指輪をつけている。
笑顔のおばあちゃんの指輪にはどんな思い出があるのだろう。
その石がなんだかわからないが、梅雨のどんよりした天気でも、綺麗に輝いている。