2008/04/06

名前


先週注文した新しいコーヒーサイフォンが届き、ミルで豆を挽き終わると母からの電話が鳴った。

5月に予定されている姉の結納の準備が着々と進んでおり、慌しいと嬉しそうに言う。

結婚式場でもある結納を行うホテルで先日食事をしてきたそうだ。
家族の結婚式は初めてで、あまり華やかな場所に縁のなかった母は、その華やかなホテルに驚き、気おくれしたそうだ。

姉の夫になる義理兄の母とも最近電話でよく連絡をとっているようで、結納で着物をどうするのかと話をしたそうだ。
いついつ仕事の休みを取ったとか、義理兄の親族はこういう人を呼ぶのだとか、うちの親戚の誰々は招待したほうがいいのだとか、式が終わった後の食事はどこでなど、とにかく慌しく説明する。





幸せだ。





姉の幸せが家族にとってとても幸せだ。
慌しさも準備の不備がないか不安なことも幸せだ。
何より母が幸せな気持ちでいる事が嬉しい。




「ホテルのスクリーンもすごく大きいみたいよ。だからあなたが作るビデオも大画面で見れるわね。」
と、母が言った。


姉と義理兄のプロフィールビデオを作るのを任されている。
ビデオを作る上で参考にならないかと、姉の名前の由来を母に尋ねた。

そういえば、姉の名前の由来も、自分の名前の由来も知らない。
弟の名前の由来は、覚えていて、父が生前ファンであった有名な女優の名前からつけられ、男なのに“美”という字が名前の最後についている。


姉の名前の由来を聞いてびっくりした。

また、父が好きだった女優の名前だった・・・。

恐る恐る自分の名前の由来を尋ねた。







案の定、父の憧れの俳優の名前だった・・・。
弟とは違い、女優ではなく俳優だった事がまだ救いだ。


3人の名前すべて父がつけてくれたそうだ。


小学生の頃、あまり自分の名前は好きではなかった。
気が弱く、他より秀でることもそれほどなく、普通の自分につけられた名前に負けていた。
今でもまだ名前に負けていると思う時が多い。
姓名判断もあまりよくない。



3人とも有名人の名前だと、ただの思い付きでつけたかもしれないと思ったが、父が逝ってもう十数年経った今、父が自分ができなかった事を僕に託し、憧れの俳優の名前をつけてくれたのかもしれないと考えると自分の名前も好きになり誇りに思える。


どちらでもよい。



父がつけてくれた名前だ。



母と二人で出生届を役所にもっていった二人の姿を一人、自分の知っている風景と差し替え想像する。



また、幸せだと感じる。





今の家族の幸せを、母の慌ただしい様子を父もみて笑っているに違いない。






コーヒーサイフォンのの熱湯の渦に、引き立てのブラジル豆の粉が混ざりグルグルと上下左右に流される
アルコールランプの火を消すとすでにコーヒーの色になった熱湯の渦は、勢いを弱め下のビーカーに吸い込まれる。
最後に空気が入りボコボコと泡がでる。



カップに注いだ熱いコーヒーを啜る。
誰にも負けないくらい旨いコーヒーだ。