2008/03/02

おめでとう。ずっとお幸せに。


いつもより高揚した気持ちでドアを開けると、イエス・キリストがステンドグラスの下でじっと二人を見つめる。

愛を誓い合う二人とそれを静かな表情で見守るイエス・キリスト。

新郎と新婦の母は涙を流し喜び、父たちはただ静かに子供と過ごした過去を思い出し、皆二人の未来をただ、幸せであってほしいと願う。


彼は、常に世界を見ていた。
大学在学中に、数ヶ国旅をして歩いた。
名もない街から街へただ自分の好奇心を信じ、多くを学び吸収しようと旅をした。
旅の記憶を写真に残し、一期一会と世界の広さを肌で感じ、それを糧に次の国へ向かう。

彼の旅の写真のスライドショーが披露宴で流れた。

彼の見た風景を僕たちが理解できるのは大型液晶テレビが表現できる画素数のみ。
映像が終わって彼を見ると泣いていた。

式の数日前に泣かないと強がっていた彼。
泣くことを忘れていたかと思うほど彼は涙を見せない人だ。

招待客の挨拶の中で、両親にお礼の言葉を述べた。
『道にそれないように育ててくれてありがとう。』
そういうとまた彼は泣いた。

制服姿の彼とピンクのカクテルドレスを着た彼女。
二人の涙が流れる度にこの二人と彼らの大切にしている人達の幸せが永遠に続くようにと願った。

涙の似合わない彼が泣き、幸せの喜びに彼女が泣き、酒を飲めない彼が酒を飲み、やさしい気持ちでその数時間を過ごす。

タバコを吸いに桜島の見える展望台にでると少し暖かくなった心地よい風が頬を撫でる。

静かになったチャペルが右手に静かに風を受けている。

彼の訪れた国々はあの桜島の遥か先、霧島の山々の遥か彼方にあり、また新しい旅人を迎え入れ、それぞれがまた新しく足跡と思い出を残しているのだろう。

きっとステンドグラスの下のイエス・キリストは一人静かに、そして、やさしく微笑んでいるのだ。